佐伯泰英

Inoue_Hideto2012-05-07

 今、佐伯泰英氏の時代小説にはまっている。きっかけは、昨年末に入院している際に読んだ彼の小説である。これは時代小説ではなく、現代小説である。犯罪に巻き込まれる主人公が、英雄的な活躍をするスリリングな内容であった。約10冊程読み終えた後、彼が取り組んだ時代小説にたどりついた。いわゆる密命シリーズで、江戸時代の将軍や殿様の密命を受けた主人公の活躍が痛快であった。あっという間に30冊くらい読み上げてしまった。
 そして、今読んでいるのが、<江戸双紙>シリーズである。これは現在進行形で、30数冊が刊行されているという。江戸の浪人の下級武士の日常の出来事をもとにやはり主人公の痛快な活躍が見物である。そう、彼の小説は文章の背景に鮮やかな映像が見えるのである。彼の小説を映画にしたらきっと面白いだろうなと思う。実際、このシリーズは、今年、NHKのBSでテレビドラマ化されたらしい。そして、なんと、この小説の舞台の江戸時代の地図が出来たのである。この小説のファンが江戸時代の古地図をもとに書いた地図がその原型だという。そして、作者の佐伯氏もこの地図が参考になると評価している。
 ひとりの作者が生み出したひとりの主人公、そしてその周りの個性あふれる人々、これらの人々が作者を動かし、独自の行動をしてゆく。そしてその時代の地図の中で、一つにドラマが繰り広げられるのである。この佐伯ワールド、現代日本人が忘れた人間らしい人々が多く登場します。

トリプル÷ワン

 25年以上、インプラントの治療を行ってきたが、スウェーデンで開発されたブロネマルクシステムのグループでの勉強が最も役に立っている。現在の歯科医療界では、より簡単に手術ができることがよいことのように、そして審美にとらわれすぎている。大事なことは、インプラントが長期的に安定することではないだろうか。ブロネマルクシステムのグループでは、この基本的な手術法を大事にしてきた。
 つまり、骨の状況をしっかり確認し、神経の位置も確認して、安全な手術を行うことが重視されたのである。ところが、このところ、歯茎をあまりはぐらずに手術をしたり、審美を重視するあまり、骨の条件の悪いところにインプラントの埋入を行ったりしている。基本に忠実なインプラントを考えるならば、骨のしっかりした場所に長いインプラントを埋入することが、長期の安定につながるのである。
 長いインプラントを利用することにより、少ないインプラントの本数で、長い上部構造の作成も可能になる。例えば、下顎の無歯顎の場合、3本のインプラントで大臼歯までの補綴が可能である。短いインプラントであれば、3本では不足である。つまり、基本に忠実な手術を身につけることで、結果は画期的な方法を編み出すことができるのである。
 骨が少ないところへインプラントを埋入する際、骨に移植が必要であるが、これも、中途半端な方法だと失敗する。外科的な侵襲は大きくなるが、基本に忠実な方法が不可欠である。この基本の積み重ねが実は、画期的な新しい治療法につながるのである。下顎に、三本のインプラントで奥歯まで歯を作る方法を、トリプルーワン(Triple-One)と名付けることにした。

 

死について

 東日本大震災から1年が経過した。自然災害で2万人近い人が命を奪われた。私の父は約9年前、そして母が先週他界した。肉親の死について考えるとき、他の人が死ぬこととは違う次元で思いがつのる。何とか死なずに生きながらえる方法がないだろうかと、あれこれ手を尽くす。しかし、いつかは死を迎える日がくるのである。その日を迎えるまでのプロセスが重要である。死んでゆく本人の無念をいうまでもまいが、残された人の虚無感はどうしようもない。どんな死でも、後悔の念はつきまとう。少しでも後悔をしなくてすむようなプロセスを経て、死をむかえるのであれば、少しは納得が出来ると思う。
 死後、死んだ人の魂はどこかに存在するという。生きていた頃に話した事や、一緒にしたことなどを思い出すとき、死んだ父や母の姿が鮮やかによみがえり自分に何かを諭そうとしているように思う。自分はこの世でまだ生きているが、ひとりではない。死後の世界に魂として存在する様々な人と一緒に生きているのではないだろうか。このようなことを考えるとき、今を如何に慈悲深く、真剣に一所懸命に生きなければならないと思う。目の前の困難な状況はきっと何とかなると思う。

ジョブズ氏の死を悼み

 アップル社のCEO、スティーブ・ジョブズ氏が死去した。生まれ年が私と同じである。この10年間の彼の功績は計り知れないものがある。パソコンをとおして人類に与えた影響は、孫正義氏にいよると、レオナルド・ダヴィンチなみだという。私も約20年前からのマックファンで、毎年、新しい機種を買い続けている。以前は、ウインドウズ系のマシンを使っている人が多く、形見の狭い思いをしてきたが、最近は、マックユーザーも増え、嬉しく思っていた矢先のできごとでした。
 彼がアップル社に戻ってきたのは、お金のためではなかった。彼は、アップル社を立ち上げた後、アップル社を追放されたが、経済的には充分余裕があったそうだ。彼がアップルに戻った理由は、多くの人たちを脅かせるようなパソコンの商品を作りたかったことがその主な理由だったらしい。
 彼自身がパソコンオタクでは決してなかった。彼はエンジニアでもプログラママーでもない。彼はひとりのユーザーとして欲しいものを、彼の徹底したこだわりで作ってきた。彼の新製品の発表会でのプレゼンテーションの仕方が評判を呼んだ。それに関する書籍も出版され、私もその一冊を購入して、参考にさせていただいた。
 色んな角度から、彼がこの社会に与えた影響は計り知れない、特に私自身へ与えた影響も大きかった。

インプラントで身も心も若々し

 インプラントという治療法は、欠損部にしっかりした補綴物を作成するための方法です。欠損しているために、顔がゆがみふけ顔になっていた人が、インプラントを入れ、さらに噛み合わせの関係を改善することで、顔のゆがみが取れ、口元が若々しくなります。このことは以前から御紹介していましたが、今回、新たに、このような治療をすることで、目が大きくなった人がいます。これはどういうことかと言いますと、顔が左に傾くことで、左の目の上下のまぶたが接近し、まぶたの間に見える目の大きさが小さくなっていたのです。治療の経過は、インプラントを埋入した後に、奥歯の噛み合わせの関係を改善し、左に傾いていた顔の傾斜が改善し、その結果左目が大きくなったのです。
 インプラントの治療を通して奥歯で噛めるようになるだけではなく、見た目も美しくなり、精神的にも豊かになっていただくことは、我々治療を施す側の人間にとっては、この上ない喜びです。このような治療ができる自分に驚きますし、このような治療に気がついたことに感謝します。

当院のキャッチフレーズ

 当院の新しいキャッチフレーズができました。それは、<インプラントで、身も心も若々しく>
または、<インプラントで、身も心も美しく>です。
 キャッチフレーズというのは、耳に残りやすく、インパクトのある言葉であった方が良いのですが、実際の中身も大切です。ある歯科医院では、集客のためのキャッチフレーズは色々工夫して打ち出すのですが、治療内容が伴っていないのです。治療内容が伴わない場合には、患者さんからの評価を得るどころか逆に訴えられる可能性もあります。治療内容を充実させることが先ず必要で、その技術を多くの人に発揮したい時に集客に取り組むのであれば、これは問題ありません。
 当院では、インプラントの実績は充分あります。さらに、噛み合わせの関係を改善することにより、奥歯が適正になり、その結果、奥歯で噛みやすくなることはもちろん、口元のしわがのび、見かけも若返ります。この治療法を多くの人に広げたいという気持ちがあり、その気持ちを端的に表現したのが、<インプラントで、美も心も若々しく>という言葉なのです。

骨造成

 インプラントの業界で、骨が少ない事が予後不良につながるので、骨が少ない場合には骨を作る技術が、15年ほどまえから進んでいる。 20年ほど前は、自家骨移植といって、自分の骨の一部を移植するしかなかったが、この頃から骨を作る為の材料がいくつか開発された。その一つがBio-Ossという材料で、これは牛から作られている。開発当初、牛由来の為の弊害が心配されたが、専門家の調査により安全性が確認され、現在では世界で多く使われている。
 日本では、厚生労働省が認可していないので、個人輸入で個人の判断で使われている。このような材料と自家骨を混ぜて使う事が多い。当院でも10年以上前からこの材料を使っているが、自家骨だけで移植した場合よりも骨の吸収は少ない。このような材料は色々なものがあるが、手術の術式をどのようにするかで、骨のでき方も異なる。我々術者は、繊細な手技で細かい作業をしなければならない。基本的な方法はあるが、新しい材料が開発されることで、手術の方法も変化してくる。
 日々、新しい方法を研究開発している。結果は、患者さんの治癒していく経過を観察する事で確認するのである。つまり、目の前の患者さんが教科書なのである。