最後の砦

Inoue_Hideto2007-02-17

 1ヶ月ほど前に治療にこられた方は、他院で約3年間ある部分の歯の痛みに苦しんでおられた。なかなか痛みがおさまらないので、転院することを決意し私の医院へ来院されたのである。約1ヶ月経過し、以前の痛みはほとんどなくなった。簡単に言えば、歯ぐきの痛みがその原因であった。前の歯科医院で装着していた白い歯を外してみると、歯ぐきの周りの骨の部分に細菌が付着していたようである。歯ぐきを開いて歯と歯の間の骨の表面に付着していた不潔な物質を奇麗に取り除くと、その後、今までの痛みがなくなったようである。3年間もその痛みに苦しめられていたその方が気の毒でしょうがない。
 その先生は一生懸命治療されていたのだが、その患者様の状況が、その先生の許容量を超えていたのであろう。人間自分はわかっているつもりでも、今までの経験だけでは理解できないことにぶちあたるものである。私も何度もそのような経験をしてきたが、そのとき、自分の限界を感じ、なぜ自分の治療がうまく行かないのかを真剣に考え続けるうちに、ふと新しい視点で現状を見ることができるときがある。今、自分の目の前にいるこの患者さんは一体全体どうなっているのだろう、今までの治療法では解決しない特殊な状況になっている。科学的な原理原則に照らし合わせて、自分の目の前の患者様の状況をより客観的に分析し、痛みの原因として可能性のあることをひとつずつ解決してゆけば必ず、問題は解決するはずである。その過程をとおして、今まで自分が知らなかった新しい治療法が発見できるのである。要は、目の前の患者様が教科書なのである。この謙虚な気持ちが薄れると、つい治療を押し付けてしまうことになるのである。戒めなければならないことだ。
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