インプラントで死亡例

 インプラントの手術中に骨の外側のある血管を切ってしまい、その結果出血が止まらず死んでしまったという事例が時々報告されています。ほとんどが、下顎のインプラントの手術中におきています。そのことは、15年くらい前にスウェーデンの先生からよく聞いていました。その危険性を知っている先生は、そうならないような注意を払った処置を心がけます。その危険性を知らない先生は、誤って血管を傷つけてしまいます。日本でも数例、死亡例があったことを聞いていますが、4年程前に、東京の開業医で死亡事故が起き、その先生が警視庁から業務上過失致死罪で書類送検されたという記事が昨日朝日新聞で報道された。
 そもそも、インプラントの手術は軽はずみにすべきことではありません。出血だけではなく、血圧などの全身管理をすることで、危険を回避しなければなりません。にもかかわらず、最近、インプラントの治療がいかにも簡単にできるような誤解を生むような情報が多く出回っています。このことは非常に問題です。我々歯科医師は、インプラントに関する正しい情報をそのまま、一般の方に伝えなければなりません。危険についても知って頂かなければなりまねんし、メリットも知って頂きたいと思います。
 今回の事故は、技術的なことをいうと、歯茎をはぐらずに行なう術式で行なわれました。通常は歯茎をきちんとはぐり、骨を露出させ、インプラントを骨の中に埋入すれば、このような事故はおこりません。事故を起こした先生は、多くの症例をこなしていた先生なのですが、人により骨の厚みが異なり、極端に薄い場合があるとうことを甘く考えていたのではないかと思います。さらに、術前に、CT 検査で骨の断面の診断をしていれば、前もって骨が薄いことがわかります。術前の診断にも問題があったのではないかと思います。 
 今回の出来事は、他人事ではなく、我々毎日のようにインプラントの手術をしているものにとっては、非常に身近なことです。常に、このような危険と隣り合わせな環境で日々仕事をしているのです。一般外科も含めて、上手くいって当たり前と思われがちな外科処置ですが、実は非常にリスクを負った難しい治療を行なっているのです。インプラントの治療費が高いとの批判もございますが、このような危険を回避して、より安全で的確な手術を目指す場合、コストはかかります、どうかご理解下さい。